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見舞い

Staff

福井まで旧友を見舞いに行った。
その彼は長らくホテルマンとして生きてきたが、念願を叶えて故郷の福井で小体な居酒屋を開いた…、はずだった。

三年前には「年に一回ぐらいは飲もうぜ」と、彼は張り切ってカニツアーを計画してくれた。
ソムリエだった彼は選りすぐりの酒をご馳走してくれたり、ホテル業界の裏話を聞かせたりで、旧交を温める楽しい夜だったのだが。

ようやく故郷へ帰り、そしてやっと自分の城を構えたはずなのだが、その頃を潮にみるみる体調を崩してしまったのだ。

「よく来てくれたな」彼は声を震わせた。
枯葉のような手の甲に穿たれた点滴の跡が痛々しくて、私も言葉を失った。

面会の後、私は芦原温泉まで脚を伸ばしていた。
ほんの見舞いのつもりが、ほろ苦い一泊旅行になった。
空いている宿を取り、真夜中のひと気のない露天風呂に浸かった。

花発ケバ風雨多シ 人生別離足ル

人は出会い、別れるために生まれてきたのだろうか。
ふとそんなことを考える。
糠雨の闇に紛れて山桜の花びらが湯殿に落ちてきた。

帰路、三方五湖のサービスエリアで彼からLINEが入った。
曰く、【元気になったらまた旅行しようぜ】だとか。
まったく世話のかかる奴だと…、笑ったら少し気が楽になった。
私はカップをくいっと差し上げて冷めたコーヒーを飲み干したのだ。

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