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追想桜

Staff

間に合ってよかった。

待ちに待った桜の開花だが、一昨夜の嵐のような風雨は、満開の花びらを叩き落としてしまうほどの激しい降り方だった。

この日はやっとの定休日だった。
自治会の書類を作ったり、水利組合の揚水機の点検などで時計の針は12時を超えてしまったけど、桜の花の下で、お一人様ランチを満喫することは叶ったのだ。

スーパーで寿司十貫のパックと緑茶を買って木製ベンチに広げた。
風が吹けば、着ていたジャケットがちょっと薄かったかなと思うほどの寒さだったが、それでも麗らかな陽気と風任せの桜の花は、まさに今しか味わうことのない映画みたいな風景だった。

私はベンチに腰掛けたまま文庫本の残りの60ページを一気に読んだ。
友人に勧められた「春に散る」だった。
散り残った花びらが空中に舞い上がり、陽光を浴びながらハラハラと降り注いでいる。
心地よい読後感を散歩に興じる老夫婦の後ろ姿に重ねて、私ももう少し休んでいようとベンチに深くもたれ、桜の名残を手に掬い取るのだ。

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